スタイリスト科卒業生・気鋭のアーティスト榎本マリコ氏講演会。初めて語られる、クリエイターとして見据える今後の展望とは?【バンタンデザイン研究所】
―――――― 肩書きは?
「絵描きって言っています」
――― 作品のこだわりは?
「いつの時代なのか、どこの国に住んでいるのかも分からないような人を描きたいと思っています。
自分の作品は、脳内のものをアウトプットして、コラージュするようなイメージで描いています」と、言葉を選びながら話すのは、アーティスト・榎本マリコ
(@mrkenmt_tmk)さん。
代表作に、GINZA SIX Xmas Beauty×WWD JAPAN2020イメージイラスト、MUSIC ILLUSTRATION AWARDS 2017にノミネートされた
YUKI「High Times」、書籍『82年生まれ、キム・ジヨン』装画があります。彼女の名前を初めて聞いた!という人も、どこかで作品を目にしたことがあるのでは
ないでしょうか。実は、榎本マリコさんはバンタンデザイン研究所スタイリスト科の卒業生!アート、イラストレーション、装画、挿絵……ジャンルにとらわれず、
絵で表現を続ける彼女を母校にお招きしました。在校当時をよく知るスタッフがインタビュアーとなり、ここでしか聞けない「これまで&これから」をうかがいます。
<WORKS:雑誌>
榎本さん「これはanna magazineの表紙です。海外サーフガールをフィーチャーしている雑誌です。特定の人物に似せる場合もあれば、
空想の『annaちゃん』を描く場合もあり、クライアントの意向を尊重して描いていますね」
――― 雑誌の仕事は多いですか?
「そうですね。コロナの影響で、ビューティでモデルさんの撮影ができなくなり、イラストで表現することは増えたかも。増えたお仕事もあれば、なくなったものもありますけれど」
<WORKS: 装画>
――― 『82年生まれ、キム・ジヨン』では、本の装丁もされているんですよね。これが初めて?
「そうです。名久井直子さんという装丁界のレジェンドがいらっしゃるんですが、その方に『作品を見ていただけませんか』とご連絡したところ、名久井さんのつて
でお仕事をいただきました」
――― 装画はどのように描いたのですか?
「最初に原稿を読んで、イメージして描く場合もあります。『82年生まれ、キム・ジヨン』の場合は、もともとある絵の中からイメージに合うものを選んでいただきました。
アメリカ版とハンガリー版もこの絵を使っていただいています」
<スタイリスト科で学んで……>
――― バンタンデザイン研究所卒業後は?
「HIRO KIMURAさんがスタイリストのとき、アシスタントをやらせてもらっていました。HIROさんはスタイリストという枠にとどまらず、アートディレクションもされていたんです。
その様子を見て、既成の服を集めてスタイリングするよりも、素材そのものを作りたい、作る側になりたいという気持ちが強くなり、アシスタントを辞めたいと申し出ました」
―――― ファッション業界にいた影響は?
「あると思います。ファッション系のお仕事は、感覚的に依頼されることも多いですが、理解しやすいです」
―――― ファッションを学んだことも差別化に繋がっている?
「そう思います」
―――― 駆け出しのときは、どうなりたかった?
「漠然と、絵で食っていきたいなと思っていました。ただ、美術の学校を出ていないのでひたすら模写していました。武蔵野美術大学の先生が教えている
絵画教室に通い、基礎を習っていましたね。飲食のバイトをしながら22……24くらいまでは、ずっと
―――― 具体的に目標を持っていた?
「漠然とですが、本の装丁はやりたいと思っていました」
―――― 営業は?
「していました。100本メールして、1本返事が返ってくればいいなと。あんまり考えず、勢いで。挫けますけれど、まぁ……そんなものだろうと感じていました。
宇宙規模で考えたら、小さなことだと自分を鼓舞して頑張っていました(笑)あとは自分がやりたいフィールドの匂いを嗅ぎつけるというか。どの辺りに出せば、
一緒に仕事をしたい人たち、見てもらいたい人に見てもらえるかを嗅ぎ分けて。そういうところで仕事を取れるようにしていました」
―――― 嗅ぎ分けるとは、どうやって?
「勘、じゃないですか?仕事をくれるのはアートディレクターがほとんど。そういう人をリサーチして、どういう仕事をしているのか、その方々の目に留まることは意識していました」
―――― 作品を購入されたときの気持ちは?
「もともとイラストレーターで始めたのは、原画を売ることに抵抗があったから。純粋に、作品を手元に置いておきたかったんです。今はコレクターもいるし、
好きで買われる方もいるので……喜んでもらえることのほうが嬉しいですし、手を離れてもいいと思っています」
<プライベートのこと>
―――― ご結婚は?
「10年前に。下積みのときですね」
―――― お子さんは。
「上が7歳、下は4歳です。全然時間がないですが、必死でやっていますよ。周りに置いていかれるという焦りがあって。みんなSNSでいい作品をあげているので、
休んでいられないなという気持ちです」
―――― 旦那さんは?
「音楽関係。ミュージシャンを支える側の仕事をしています」
―――― こうして聞くと榎本さんって、いたって普通な印象を受ける。成功する秘訣は?
「秘訣は……辞めなかっただけ。続けていただけです」
―――― 心が折れそうなときは、どうしている?
「そんなにないです。これしかないと思っているので。絵描きの中でも、イラストレーターなのか?アーティストなのか?ということへの迷いや自問はあります。
目標としては、美術家で食べられるようになりたいし、シフトしていきたい。クライアントワークを少しずつおさえて……。業界として、コンセプチャルな作品の方が、
価値が高いとされる世界だな、と感じています」
―――― これから、やりたいことは。
「平面だけでなく、スカルプチャーとか立体にも挑戦したい。あとは、死ぬまで描いて生活していきたい。今はこのスタイルで生きていますが、また変化するかもしれないです」
最後は、学生たちからの質疑応答です。
Q 1日の制作時間は?
「平均して7時間くらい。子どもを、こども園と学童に預けて帰ってくるまでの時間なので、9時から16時半まで。夜、子どもを寝かした後に描くこともあります」
Q 子供がいても仕事はできますか?
「できちゃうって言うと語弊があるかも……。自分は合っているという感じです」
Q 描いていて、煮詰まったらどうしますか?
「しょっちゅう、ありますよ。いったん離れて、好きな作品がある美術館に行くとか、空をボケーッと見たりします。夕焼けを見ていると『うわー、これだよね!』
みたいな気持ちになります。何か圧倒的なものとか見ると気持ちも変わりますよ」
アーティスト・榎本マリコさんの頭の中を、少しだけ垣間見られたのではないでしょうか。理想の仕事をするまでの経緯や、美術家として舵を切っていくことへの静かな決意を、
包み隠さず語ってくださいました。
先輩アーティストから、学生たちはたくさんのヒントを得られたはず。