<特別講演会>資生堂トップヘアメイクアップアーティスト 原田忠氏のクリエイティブプロセスとは? 美意識、クリエイティブ感度、技術が切り拓くヘアメイクの新境地

授業/特別講師/講演会
東京校
ヘアメイク学部

バンタンデザイン研究所は、業界をリードするプロフェッショナルクリエイターによる講演会が豊富。

今回のゲストは、資生堂トップヘアメイクアップアーティスト原田忠氏。
「はじめまして、原田と申します。皆さんの大切な2時間をいただいています。
楽しみながら有意義な時間を過ごしていただけたら」とご挨拶。

1 夢を叶える方法

「ヘアメイクアップアーティストは、その人の人生に寄り添いながら魅力を引き出し、
最終的に人の人生を変えることができるくらいの素敵な職業だと思います。
ここで、私が考える夢を叶える方法をお伝えします。
まずは、『声に出す』ことです。必ず聞いてくださっている人がいます。
そして、『手伝ってもらう』こと。周りのサポートがあってこそできる仕事です。
しっかりとリーダーシップをもってやってください。また『諦めない』こと。
自分の夢にどこまで本気で向き合えるかです」

2 原田忠氏PROFILE

「航空自衛隊航空管制官の仕事をしていました。
人の命を預かるお仕事ですが、無線でのやり取りに、コミュニケーションの希薄さを感じていました。
実家が美容室を営んでおり、母が施術をしてお客さまから『ありがとう』と言われる姿を見ていました。
自分が育った環境こそが原点であると感じ美容師へ転身します」

資生堂に入社し、トップヘアメイクアップアーティストとして、
NY・パリ・上海・東京コレクションのバックステージ、宣伝広告ヘアメイク、商品開発、
著名アーティストのCDジャケット、ミュージックビデオにビューティーディレクターとして関わります。
「さまざまなクリエイションを経験することで、
自分の中で描ける女性像のストックが生まれ提案力が増えていきます。
サロンワークとクリエイションは地続きです」

主な受賞歴は……
2004年 2012年に2度のJHA(Japan Hairdressing Awards)グランプリ受賞
2005年 2006年、2009年、2021年に4度のJHA準グランプリ受賞
2008年 青山芸術賞
2024年 IBA(インターナショナル・ビューティーインダストリー・アワーズ)3部門グランプリ
他にも多数の受賞歴が。
「JHAには、19年連続ノミネートされています。傾向と対策はすることなく、
作品の系統もバラバラですが、そのときどきの気持ちに素直に向き合っています。
今年は、NYで開催されているIBAに応募し3部門でグランプリを獲得しました。
海外のコンテストでは様々なカテゴリーがあるので、自分を評価してくれる環境を選ぶことも必要です。」

3 美意識とは

「美意識とは何でしょうか。単純にいうと良いか悪いか判断する基準です。
美意識は、直観(アート)と言い換えられます。また、
『機能的便益』(早い、上手い、安い)、
『情緒的便益』(デザインやブランド)、
『自己実現的便益』(そのような人である、メッセージをまとい自信、共感、発信、信頼、ステイタス、憧れ)
という判断基準の側面があります」

4 クリエイションとは

「クリエイションは人々にいきる喜びや幸せを与え、希望や夢をもたらすものです。
人の幸せのために何ができるか?創意工夫することがクリエイションの原動力です」

原田氏が考えるクリエイションには、主に3つのタイプがあります。

  1. リアルクリエイション:目の前のお客様のライフスタイルやなりたいイメージに寄り添い、
    魅力を引き出し、生活に彩り、喜び、幸せを与える。
  2. トレンドクリエイション:一歩先、半歩先の流行を察知し、予測して一般誌や広告ビジュアル等で発信し、
    美しくなれる期待感や希望を与える。
  3. クリエイティブクリエイション:アート性やファッション性の高いクリエイションは業界の枠を超え、
    美容表現の可能性を高め、好奇心と美意識を刺激し、美容に携わる人々の職業的な価値と地位を
    向上させる。

5 クリエイティブ感度を鍛える

「ファッションやビューティブランドの広告は、アートディレクター、クリエイティブディレクター、
モデル、ヘアアーティスト、スタイリスト、メイクアップアーティストなど、
一流のクリエイターが携わっています」
ここで、「クリエイティブクリエイション」を解釈するワークを実施。
ファッション写真を例にとり、「どのようなシチュエーションだと思いますか?間違いも正解もありません。
どれだけ妄想を働かせるかの訓練になると思います」と、参加者に意見を求めます。

6  ヘアメイク作品を披露!衣装デザイナーの照井智己氏との作品

そして、衣装デザイナー照井様とのコレボレーションワークを披露。

原田氏
「生成AIからのインスピレーションをベースに創作した作品です。
最先端の技術と手仕事のコラボですが、新しいものをうみだすエネルギーはとても必要です」
作品を瞬時に仕上げます。

照井氏
「今の時代背景を憂い、ハッピーを感じてもらえるよう、花束のようなイメージでつくりました」

7  具体的なCREATION PROCESSは?

「クリエイションのプロセスでは、クリエイションの源泉、イメージを探ることが大切です。
ご自身が好きなものを徹底的に掘り下げて。時間、労力、想いを込めた作品は観る人の心に伝わります。
また、過去から受け継がれた絵画、音楽、建築、カルチャー、アートなど、
時の洗礼を受けて残っているものには、必ず理由があります。
トレンドを追いかけてしまうと消費されてしまいます。
何か新しいものを生み出すときは、遠いもの同士を組み合わせると新しいイメージが生れます」
とヒントを与えます。

他にも、世界の歴史や文化に触れることが大切。イメージに合う女性像、年代、時流、歴史から絞る。
様々国の文化、伝統美、民族、風習から絞ることを解説。
さらに、興味や刺激、今の自分を掘り起こすこと。
そして、表現したい世界観をイメージすることが大切だと説きます。
「イメージに合致するモデルを選ぶことはとても大事です。
作品のクオリティの80%が決まるといっても過言ではありません。モデルさん選びには妥協しないで」

クリエイティブプロセスでは、頭の中のイメージを整理し、コンセプトシートを作成。
「デッサン、ラフ案をしっかり書くことはとても重要です。
試作すると見えてくるものが必ずあります。
方向性を決めたら、モデル、スタイリストに共有しながら作品をさらに詰めていきます。
自ら生み出す作品も、クライアントからオファーをもらったときも同様に、
イメージを3次元化するためにデッサンと試作を繰り返し、クオリティを高めます。
現場の空気感も大切です。チームメンバーの感性も吸い上げるようなリーダーシップが必要です。」

180作品以上を収録した作品集「原田忠全部」(女性モード社)についても解説。
「当初は誰もやっていないダークな雰囲気の作品が多かったです。
だからこそ自分の世界観を表現できたのかな。
作品つくりや表現する際に選択するときに、迷ったら面倒くさいほうをとって。
面倒くさいことをやったほうが突き抜けられると思います。人がやらないことをやるのが重要です」
とメッセージ。

8 「瞬間で変わる」2つめのヘアメイク作品を発表

「中国でショーを行ったときの作品です。
中国では赤がとても縁起が良くハッピーな色として親しまれていると聞き、赤を使いました。
その国の社会的背景や文化を取り入れるようにしています」

「ボンボリ」が連なるユニークなヘッドピースを、モデルさんにヘアセットしていきます。

「せーの」という掛け声と共に糸を引くと、
ボリュームのあるボンボリが収縮し円形が重なった形に変化!!!

会場からは拍手が巻き起こりました。
「ボンボリを1個作るのに、ハードスプレー1本を使っています。
お祭りの日に見るボンボリが伸びたり縮んだりする様子が面白いなと思いヘアで表現しました。
ヘアショーならではの瞬時に変化するエンターテイメント性も取り入れています」

ここからは、メンバーからの質問に答えていただきます!

―― 男性ヘアメイクアップアーティストとして成功する為に何を大事にしていましたか。

「決して成功しているとは思いません。やりたいことを突き詰めてやっているだけです。
ヘアメイクを学んだ直後は、タッチの柔らかさ、気遣いがなかなかできませんでした。
相手に触れたときに、相手がどのような感覚になるかを研究しました。
また、自分自身が清潔感、健康でないと人をキレイにできません。もちろん技術や知識も必要です。
その人に不快感を与えないような姿勢、その人に寄り添い、美しさと微力を引き出せるかが重要だと思います」

―― メイクアップアーティストを選んで良かったことは?

「培った技術で、人を笑顔にできると喜びを感じられます。
携わる人がハッピーになることはモチベーション、やる気につながります。
人がいるところには、必ず美容が生まれます」

―― 作品作りをしているときに、ヘアで作っているか分からないと言われることがあります。素材やプロダクトなど選び方にコツはありますか?

「僕も言われたことがあり、売り物に思われてしまうことがあります。
なので、ヘアピースなどの制作物は完璧すぎる一歩手前で辞めています。」

―― 原田さんが、理想とされているキャリアビジョンは?

「自分がなぜ続けられているかというと、いつまでも上手くなりたいから。
自分が上手くなれば、表現の幅や提案力が増え、多くの方の要望に応えられ喜んでもらえると信じています。
あまり先を見ずに今やるべきことを着実に続けていくことが大切です」

さらに、最後に原田様から素敵なサプライズが……!
非売品・作品集を3冊ご用意くださいました!しかもサイン入り。
ジャンケン大会の末、勝ち残ったメンバーからは悲鳴にもにた歓声があがりました!

オオクボさん、ナカザワさん、フルカワさんが貴重な作品集を手にしました。

最後に……
「今日のセミナーで何か気づきやヒントを持って帰っていただけたら嬉しいです。
皆さんと、いつか一緒に仕事ができる日を楽しみにしてます。
共にこれからの美容業界を盛り上げていけたら嬉しいです!」とエールを送りました。
在学中から、業界をリードするトッププロフェッショナルから直接お話をうかがい、
クリエイションのプロセスについて教えていただけるのも、
業界と豊富なコネクションを有するバンタンデザイン研究所で学ぶメリットです。
原田様、お忙しいところありがとうございました!

【PROFILE】
航空自衛隊航空管制官から美容師へ転身。
㈱資生堂に入社し、宣伝広告、NY・パリ・上海コレクションのバックステージ、
ミュージシャンのCDジャケットやミュージックビデオのヘアメイク、商品開発など活動は多岐にわたる。
アニメや漫画のキャラクターから着想を得て制作した作品は、国内外から高く評価され話題となる。
40代以降の男性に向けたメンズビューティー企画『DIAMENS(ダイアメンズ)』を立ち上げ、
ヘアメイクアップと撮影を通じて、その人が持つ新たな魅力を引き出している。
また、一般社団法人宇宙美容機構の共創プロジェクトへ参画し、
宇宙における美容生活課題の解決と宇宙産業・美容産業の発展、
宇宙を通じた地上産業への貢献に取り組んでいる。
JHA(ジャパンヘアドレッシングアワーズ)では 最優秀新人賞受賞から19年連続ノミネートを果たし、
2度のグランプリ、4度の準グランプリを受賞実績を持つ、業界最多のタイトルホルダー。
その実績と功績が認められ2022年よりJHAプロフェショナル審査員に就任。
2024年には、NYで開催される世界65か国の美容技術者を対象とした
ヘアメイクコンテストIBIA(インターナショナルビューティーインダストリーアワーズ)にて、
3部門でグランプリを受賞し世界的な評価を得る。
著書に、創作作品180点以上を収録した作品集「原田忠全部」(女性モード社)、
男の身だしなみの極意書となる「一流の男のボディケア」(PHP研究所)がある。

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