<卒業生インタビュー>新政酒造株式会社 デザイナー 浅野佑太さん(2021 年 3 月卒業 バンタンデザイン研究所 デザイン学部デザイン学科)【バンタンデザイン研究所】
バンタンデザイン研究所は、業界で活躍するプロフェッショナルを数多く輩出しています。
今回は、2021 年 3 月に、デザイン学部デザイン学科を卒業された浅野佑太さんにインタビュー。
現在は秋田の酒蔵「新政酒造」にて、インハウスデザイナーとしてご活躍されています。
秋田にある新政酒造株式会社の本社、雰囲気があってかっこいい
<「新政酒造」に入社するまで>
―― 新政酒造に入るキッカケは?
「バンタンデザイン研究所のスタッフさんに、卒業制作展の時に新政酒造さんを紹介されたのがキッカケです。
『お酒をつくる会社だよ』と聞いたときに、もともと伝統的な文化をモダンに表現する課題に取り組んだこともあったので、興味はありました。
お話をいただき、すごく面白そうと直感しました。ただ、説明の最後に『勤務地は秋田市』と言われて……。
もともとは、関東圏で働くイメージを持っていたので、いったん考えてみようと思いました」
新政酒造株式会社 デザイナーの浅野佑太さん
(2021 年 3 月卒業 バンタンデザイン研究所 デザイン学部デザイン学科)
―― ご出身は?
「神奈川です。地方で働くことは全く考えていませんでしたが、コロナ禍でリモートワークなども進んでいるので、
関東圏で働かなくてもいいかなと考え、入社を決意しました」
―― 今、おいくつですか。
「21歳です」
―― お酒は好き?
「新政酒造に入社してからは 1 人でも飲むようになりました。
著名なデザイナーは誰しも飲食系のパッケージデザインは手掛けているので、やってみたいという気持ちはありました。
新卒の若い人をデザイナーに起用する蔵元は、なかなかいないと思います」
―― 新政酒造を知っていた?
「……知らなかったです」
―― 入社の決め手は?
「裁量が大きいところに惹かれました」
―― 実際に入社されてみて、いかがですか。
「入社してちょうど 1 年が経ちます。
自分で、全部をやらなくてはいけないので忙しさはありますが、そこがやり甲斐でもあると思います。
入社当時から変わらずいいところです」
浅野佑太さんの働いている様子
<高 1 でデザインを始め、バンタンデザイン研究所デザイン学部へ>
―― デザインは、何歳からされていた?
「高校 1 年生くらいで、体験版のようなソフトを使って始めていたと思います。
2 年生になったくらいから、コンペティションにも応募していました」
―― なぜ、バンタンデザイン研究所を選ばれたのですか。
「友だちがファッションの進路に進むということで、説明会に付いていきました。
講師全員が現役クリエイター講師というのが、いいなと思いました」
―― 実際に入学して学ばれて、いかがでしたか。
「講師は、いい方が多かったですね。
現在、リアルタイムで取り組んでいらっしゃるお仕事の中で素晴らしいデザインを手掛けている人が多く刺激を受けましたし、しっかり教えてくださいました。
特に、松山先生は印象的でした。メンバーに対して愛情がありましたし、作品に対するフィードバックを得られるのも良かったです」
―― 新政酒造のようなメーカー側ではなくデザイン会社に入る選択肢はありましたか?
「在学中に SAMURAI さんにインターンでお世話になりましたが、特定のデザイン会社へのを就職を考えたことはありませんでした。」
―― なぜ SAMURAI で?
「バンタンデザイン研究所で、インターンのご紹介を受けたので。
チャレンジしない理由はなかったので応募したら、受かりました。
仕事内容は、そこまでデザインに関わる仕事ではなかったですが、それらも含めてデザインの仕事なので、そういったことも大事なことだなと感じました。
『佐藤可士和展』の手伝いで、巨大なアトリエで巨大サイズの作品の検証実験などをさせていただきましたね」
<「新政酒造」8 代目蔵元 佐藤祐輔さん>
ここからは、浅野さんを社員として迎えてくださった「新政酒造」8 代目の蔵元である佐藤祐輔さんにも、お話をうかがいます。
―― 新卒デザイナーを採ろうと思われた理由は。
代表取締役社長・佐藤さん(以下佐藤社長)「自分とセンスも合うし、会社のトータルコンセプトも理解し、具現化できそうだと感じたからです。
あまり指示せず仕事を丸投げすることも多いけれど(笑)、彼は具体化してくれますね。
ソフトの使い方云々についてはいずれ熟達するようになるので、大事なところではないんです。
柔軟な考え方ができれば、やっているうちに引き出しは増えていきます」
「新政酒造」8 代目蔵元の佐藤祐輔さん
―― 採用で重視した点は?
「どうしても納期があるので、作業自体を早くやろうとする意識があるかどうかは見ました。
あとは、これまでに制作した作品です」
―― 作品をご覧になった感想は。
佐藤社長「知り合いのショップのロゴが気に入りました」
浅野さん「親の知り合いが運営しているネイルショップに、ロゴを提案したんです」
佐藤社長「浅野さんは、タイポグラフィが得意ですよね」
―― これまでで、いちばん楽しかったお仕事は?
浅野さん「東京駅のコンコースでオープンしたポップアップストのグラフィックをデザインした仕事は気に入っています。
入社して数カ月で、大きな仕事を任されるとは思っていませんでした。自分が作ったものを、たくさんの人が見てくださることに感動しました」
佐藤社長「入社したのは、ちょうど、『No.6(ナンバーシックス )』が 10 周年を迎えるくらいで、忙しいタイミングでしたね。
2021 年に、新政酒造が敬愛する 6 名のアーティストとのコラボレーション作品(日本酒)をリリースしました。
フランス人の現代美術家ニコラ・ビュフさん、イラストレーター・ダイスケリチャードさん、クリエイティブディレクター 水野学さんなどと仕事をしてもらいました。
他にも、漫☆画太郎さんがラベルデザインを行った「No.6 漫☆画太郎 type」も担当してもらいましたね」
浅野さん「この歳で、ここまで色んな仕事をさせていただく機会はないと思います」
浅野佑太さんがデザインに携わった「No.6 漫☆画太郎 type」と「No.6 水野学 type」、すごい
<外側にどれだけ手間暇をかけたかが、中身の信頼性の担保になる>
―― なぜ、自社でデザイナーを雇おうと?
佐藤社長「そもそも、デザイナーがいる蔵ってないですよね。最初は、自分でデザインをやっていました。
初めの No.6 は、僕のデザインです。でも、酒造りもやらなきゃいけないし、デザインもやらなきゃいけない。
地元の広告会社に発注しても、直しも思うようにできなかったんです。
そこで、美大出身者を採用したところスピードが上がり、必要不可欠な存在になりました。
お酒って、試飲はできないじゃないですか?なので、外側にどれだけ手間暇をかけたかが、中身の信頼性の担保になります。
中にいいものを作っているのであれば、よりデザインをやらなければなりません。
僕が入社した頃は、日本酒は全然人気がなくて。新政酒造の経営状態も芳しくなかったので、もっと直感的にわかりやすいデザインの方がいいと思い、意識的にシンボルマークを大きく表現したりしました」
―― 新政酒造に入社される前は、どのようなお仕事を?
「ライターをしていました。デザインとかマーケティングを仕事にしたことは、ないですね」
―― なぜ、このようなブランディングを実現できたのですか。
「たまたまじゃないですか(笑)?作り手なので、日本酒が内包するメッセージを、畑違いの営業が伝えるよりはずっと的確に伝えられた部分はあると思います。
ダイスケリチャードさんは、渋谷を歩いていて知りました。絵が綺麗ですよね。
この「No.6 十周年記念企画」は水野学さんや紫舟さんのような大御所だけでなく、こういう若手とか、漫☆画太郎さんみたいな先鋭的な作家さんも入ったことで、新政らしいフックがある企画になったと思います。
「No.6 十周年記念企画」も、予定調和的なものを避けて、プロジェクト全体を見たときに エッジの効いた驚きもあるということをしたかったんです。
完璧にまとまったデザインや企画は目指していません」
―― その理由は。
「僕らは、生産量が決まっているものを作っていて、量を増やせないわけです。
もしも、いくらでも作れて供給できるなら、多くの人に分かりやすいデザイン、メッセージの伝え方にするかもしれません。
生産量が限られているからこそ、新政酒造をご理解くださる顧客に届くデザインにしなくてはいけません。こだわりのある若い人にも飲んでほしい。
だからこそ、浅野さんのような 21 歳のデザイナーがいるのは、いいことです」
新政酒造の木桶蔵。伝統製法を重んじています
―― 自社のデザインをどのようにとらえている?
「特殊なデザインです。大量生産・大量消費のデザインと、少量少品種のデザインとは違うだろうと感じます。
より商品を理解してくださる人に、優先的に届けられたらという想いはあります。
万人を喜ばせるデザインではないからこそ、先鋭的に挑発的に体現することで、アプローチしたい顧客が吸い寄せられると考えています」
―― 浅野さんをデザイナーに据えることも独自性の一つでは。
「過去の作品を見たらいけるのかなと思いました。20 代の人が日本酒を飲んでくれないと困るので、絶対に同世代がデザインをしたほうがいいです」
―― ビジネスで独自性を出すために、大切にしていることは。
本質的な心情は、経営者というよりもデザイナーに近いです。
クリエイティブなデザイナーは、クライアントの要望は呑むけれど、そこである程度自分を表現しないといけない。
そうでなければ、 代替がきく人になってしまいます。
経営もデザインも、自分が信じた価値を、他人に根気強く説得する作業でもあると思います。
我々はマーケティングらしいマーケティングを一切していません。
もともと日本酒には唯一無二の価値が宿っていると我々は信じています。
そうした隠れた価値を長い時間をかけて、お客さんに説得することが我々の唯一の仕事であり、経営のあり方です。
なので、お客さまのニーズを探るということはしていません。
伝統産業の分野では、お客さんのニーズに振り回されて得体のしれない新しいものをこしらえるべきでありません。
あくまでも、もとからある価値を尊重し、これをいかに現代に即して魅せるかが大事です。
大事なのは、無形の伝統性・歴史性やそれが育むストーリーあるいはロマンです。
ニーズを汲んで有形のものばかりに意識を傾けると、一時的には売れたとしても、長い目では産業の本来の価値を失う可能性もあります。
これは、アーティストにも通じることではないでしょうか。
例えば、一流の芸術家はマーケティングをベースにした創作姿勢を取ることは滅多にないと思います。
我々も、意識としては芸術家としてありたいと願っております。
大量生産でなく、家内制手工業的に家業を営んでいるからこそ、こういうことができるのだと思います。
―― なるほど。デザインは、どのようにオーダーする?
「具体的に言うときもあれば、異様に抽象的に伝えるときもあります。
浅野さんは、古参の社員のようにすごく仕事ができるので。
抽象的に伝えるのは、自分で調べたり考えたりしてほしいという意味合いもあります。
ある会社に所属すると、『手癖』というか、どうしても似たようなスタイルになりがちです。
こちらも『格別いいわけではないけれど、まぁムードとしてはいい』みたいな着地点になりがちなので、それを避けるためでもあります」
<デザイナーとして、今後の展望>
最後に、浅野さんに今後についてうかがいました。
―― 今後の目標は?
「今ある仕事のスピードを早くし、クオリティも高めていきたいです」
―― 将来、独立は考えていますか。
「学生のときは独立したいという想いはありましたが、今はあまり考えていません」
―― 後輩にメッセージを!
「地方にも、魅力的なデザインの仕事はあります。場所を限らず、チャレンジ、働いてみるのもいいと思います」
お二人とも、インタビューに応じていただき、ありがとうございました!